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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)1500号 判決

原告 柴田駒治

右訴訟代理人弁護士 木村五郎

同 岡田和義

同 臼田和雄

被告 株式会社牧野組

右代表者代表取締役 牧野庄太郎

右訴訟代理人弁護士 須田政勝

主文

原告が被告に賃貸している別紙目録記載(一)、(二)の土地の賃料は二筆あわせて昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までは一ヶ月八万九五四二円、昭和四八年四月一日以降は一ヶ月一二万二一九九円であることを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告、その余を被告の負担とする。

事実

第一、申立

(請求の趣旨)

原告が被告に賃貸している別紙目録記載(一)、(二)の土地(以下、特に断わらない限り二筆あわせて本件土地といい、別々にいうときは本件(一)の土地、本件(二)の土地という)の賃料は二筆あわせて昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までは一ヶ月一五万八〇一六円、昭和四八年四月一日から昭和五〇年六月三〇日までは一ヶ月二二万一二二二円、昭和五〇年七月一日以降は一ヶ月二六万三三五五円であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(一)  本件(一)の土地

年度(昭和)

評価額(円)

固定資産税

課税標準額(円)

固定資産税

都市計画税額(円)

都市計画税

課税標準額(円)

四一

七九五二〇〇〇

二〇四六八三

三四五〇

二九九一五三

四二

七九五二〇〇〇

二六六〇八七

四八五〇

五六八三九〇

四三

七九五二〇〇〇

三四五九一三

六九九〇

一〇七九九四一

四四

七九五二〇〇〇

四四九六八六

二二一九〇

七九五二〇〇〇

四五

四二四九三五〇〇

六二九五六〇

三九〇二〇

一五一〇八八〇〇

四六

四二四九三五〇〇

八八一三八四

六九七四〇

二八七〇六七二〇

四七

四二四九三五〇〇

一二三三九三七

一〇二二五〇

四二四九三五〇〇

(二)  本件(二)の土地

年度(昭和)

評価額(円)

固定資産税

課税標準額(円)

固定資

産税額(円)

都市計画税

課税標準額(円)

都市計

画税額(円)

四一

一二四八〇〇

二三四八八

三二〇

三四三二九

六〇

四二

一二四八〇〇

三〇五三四

四二〇

六五二二五

一三〇

四三

一二四八〇〇

三九六九四

五五〇

一二三九二七

二四〇

四四

一二四八〇〇

五一六〇二

七四〇

一二四八〇〇

二四〇

四五

四六九三六五

七二二四二

一〇一〇

一九九六八〇

三九〇

四六

四六九三六五

一〇一一三八

一四一〇

三一九四八八

六三〇

四七

四六九三六五

一四一五九三

一九八〇

四六九三六五

九三〇

との判決を求める。

第二、主張

(請求の原因)

一、原告は、昭和二七年一二月二〇日以降被告に対し本件土地を建物所有の目的で賃貸している。

二、本件土地の賃料は、昭和四一年以降一ヶ月四万二一三五円(三・三平方メートルあたり八〇円)であった。

三、しかし、右賃料は、本件土地の価格の高騰、物価の高騰、公租公課の増額により極めて不相当となった。ちなみに、本件土地の昭和四一年度から昭和四七年度までの評価額、固定資産税課税標準額、固定資産税額、都市計画税課税標準額、都市計画税額は、次のとおりである。

四、そこで、原告は、被告に対し、昭和四七年二月二二日付同月二四日到達の内容証明郵便で本件土地の賃料を同年四月一日以降一ヶ月一五万八〇一六円(三・三平方メートルあたり三〇〇円)に増額する旨の意思表示(以下、第一次増額請求という)をした。

五、従って、本件土地の賃料は、昭和四七年四月一日以降相以額である右第一次増額請求額に増額された。

六、しかし、右賃料も、その後の本件土地の価格の高騰、物価の高騰、公租公課の増額により再び不相当となった。

七、そこで、原告は、被告に対し、昭和四八年三月一九日付同月二八日到達の準備書面で本件土地の賃料を同年四月一日以降一ヶ月二二万一二二二円(三・三平方メートルあたり四二〇円)に増額する旨の意思表示(以下第二次増額請求という)をした。

八、従って、本件土地の賃料は、昭和四八年四月一日以降相当額である右第二次増額請求額に増額された。

九、しかし、右賃料も、その後の本件土地の価格の高騰、物価の高騰、公租公課の増額により三たび不相当となった。

一〇、そこで、原告は、被告に対し、昭和五〇年六月三〇日付同日到達の準備書面で本件土地の賃料を同年七月一日以降一ヶ月二六万三三五五円(三・三平方メートルあたり五〇〇円)に増額する旨の意思表示(以下、第三次増額請求という)をした。

一一、従って、本件土地の賃料は、昭和五〇年七月一日以降相当額である右第三次増額請求額に増額された。

一二、ところが、被告は、右各賃料増額の効果を争う。

一三、よって、原告は、被告に対し、右各増額賃料額の確認を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一、請求の原因第一項記載の事実は、認める。

二、同第二項記載の事実は、否認する。本件土地の賃料は、昭和四一年一月一日から昭和四三年一二月三一日までは一ヶ月二万六三〇〇円(坪あたり五〇円)、昭和四四年一月一日以降は一ヶ月四万二一三五円(坪あたり八〇円)である。

三、同第三項記載の事実は、否認する。

四、同第四項記載の事実は、認める。

五、同第五項は、争う。

六、同第六項記載の事実は、否認する。

七、同第八項は、争う。

八、同第九項記載の事実は、否認する。

九、同第一一項は、争う。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、原告が昭和二七年一二月二〇日以降被告に対し本件土地を建物所有の目的で賃貸していることは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、本件土地の賃料は、昭和四一年一月一日から昭和四三年一二月三一日までは一ヶ月二万六三〇〇円(坪あたり五〇円―三六円切捨)、昭和四四年一月一日からは一ヶ月四万二一三五円(坪あたり八〇円―二・六円切捨)であったことが認められる。原告本人は、本件土地の賃料が一ヶ月四万二一三五円になったのは、昭和四〇年過ぎからであるかのように供述するが、右供述は、前掲証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、本件土地の賃料について、原告が被告に対しまず昭和四七年四月一日以降の分につき第一次増額請求をしたことは当事者間に争いがなく、次いで昭和四八年四月一日以降の分につき第二次増額請求を、更に昭和五〇年七月一日以降の分につき第三次増額請求をしたことは、本件記録上明らかであるが、≪証拠省略≫によれば、本件土地の昭和四一年度から昭和四七年度までの評価額、固定資産税課税標準額、固定資産税額、都市計画税課税標準額、都市計画税額は、原告主張のとおりであることが認められ、従って本件土地の価格はその間高騰していること推認され、また、杉本鑑定によれば、本件土地の昭和四八年度の評価額は本件(一)の土地が三九〇四万六六〇〇円、本件(二)の土地が五三万四一〇〇円と合計では昭和四七年度より低くなっていることが認められるけれども、小野鑑定及び杉本鑑定によれば、本件土地の昭和四八年度の固定資産税額及び都市計画税額は合計で本件(一)の土地が二〇万九〇八〇円、本件(二)の土地が三八三〇円と昭和四七年度より増額されており、また、本件土地の昭和四八年四ないし七月の価格は昭和四七年二月の価格に比し高騰していることが認められる。従って、特に反対の事情が認められない以上、本件土地の第一次増額請求時及び第二次増額請求時の各賃料は、いずれも不相当となっていたものと推認すべく、第一次増額請求及び第二次増額請求は、いずれもその要件を具備するものといえる。右認定を左右するに足りる証拠はない。そうだとすれば、本件土地の賃料は、第一次増額請求及び第二次増額請求により右各請求にかかる時点における相当額に増額されたこととなる。

しかし、第三次増額請求については、これがその要件を具備するものと認めるに足りる証拠はない。従って、第三次増額請求による増額は、認められない。

三、そこで、第一次増額請求及び第二次増額請求による各増額の相当額について判断する。

小野鑑定は、結論として、本件土地の適正賃料額は昭和四七年二月二四日現在が一ヶ月九万四一六二円(坪あたり約一七八・七七円)、昭和四八年七月二五日現在が一ヶ月一二万二五五〇円(坪あたり約二三二・六七円)であるとし、杉本鑑定は、結論として、本件土地の適正賃料額は昭和四七年二月二四日現在が一ヶ月九万九〇一八円(坪あたり約一八七・九九円)、昭和四八年四月一日現在が一ヶ月一三万六四一四円(坪あたり約二五八・九九円)、昭和四八年一二月一日現在が一ヶ月一四万七〇一五円(坪あたり約二七九・一一円)であるとするが、右両鑑定の証拠価値につき、原告、被告ともそれぞれの立場から疑問を呈しているので、以下に仔細に検討する。

両鑑定とも、鑑定評価の方式としては、積算式評価法をとる(もっとも、両鑑定とも、スライド方式や近隣賃料との比較も試みてはいるが、その結果は一応の参考にとどめ結局のところは積算式評価法によっている)が、その算式には差異があり、小野鑑定は、

(更地価格×建付補正率×底地割合×期待利回り+固定資産税+都市計画税+管理費)×1/12

の算式によるのに対し、杉本鑑定は、

{(更地価格×建付補正率×底地割合×期待利回り+固定資産税+都市計画税+管理費-従前賃料)×1/2+従前賃料}×1/12

の算式による。

被告は、賃料増額訴訟における相当賃料額の算定にあっては、スライド方式を基本とし他の方式を補正手段として用い総合考量して決すべきものとし、算式としては、直前の従前賃料額にその協定時から増額時までの地代家賃指数の上昇率を乗ずるという算式によるべきものとする。しかし、いうまでもないことながら、地代家賃指数の上昇率なるものは、全国の平均値であって地域的、個別的な要因は何ら考慮しないものであるから、被告のいう算式が相当賃料額算定の基本となりうべくもないことは、当然である。スライド方式を基本とすること自体は是とするとしても、算定の基礎とすべき適確な資料、例えば直前の賃料額協定時における本件土地の価格(それも現在の価格を時点修正したものではなく当時の取引事例、公示価格、路線価等から割り出したもの)が明らかでない本件では、結局前記両鑑定のとる積算式評価法を基本とせざるをえないが、積算式評価法といいスライド方式といっても、相矛盾排斥するものではなくどちらが正確かの問題にすぎないから、積算式評価法も、あてはめる数値さえ正しければ妥当な結果が得られるわけであり、従って、右をもって足るものというべきである。

さてまず、本件土地の更地価格について、小野鑑定は、昭和四七年二月現在が坪あたり約二七万円、昭和四八年七月現在が坪あたり約三二万円であるとし、杉本鑑定は、昭和四七年二月現在が総額九二二四万五九二四円(坪あたり約一七・五万円)、昭和四八年七月現在が総額一億三一一〇万八八八四円(坪あたり約二五万円)、昭和四八年一二月現在が総額一億四四二一万九五三二円(坪あたり約二七万円)であるとするのに対し原告は、昭和四七年当時で少くとも坪あたり約四〇万円はしたようにいい、原告本人も、同旨の供述をしており、他方、被告は、右両鑑定の評価には投機的要因が含まれているという。しかし、右両鑑定において比較考量の対象とされている取引事例の取引価格と公示価格、路線価との対比に本件土地の路線価を参照してみれば、本件土地の更地価格は、小野鑑定のとおりとみるのが相当であると考えられる。杉本鑑定は、本件土地のうち国道に接面しない部分(商業地として利用できない部分)を多く見積り過ぎ且つその部分の価格を安く見積り過ぎていて失当であり、原告本人の供述は、本件土地が地積に比し国道に接する間口の狭い台形地であることを考慮せず高く見積り過ぎていて失当である。

次に、建付減価率について、小野鑑定は、四〇パーセントとみているのに対し、杉本鑑定は、二五パーセントとみているが、≪証拠省略≫によれば、本件土地は、北側二〇〇坪余りの部分には被告所有の木造平家建貸家居宅五戸が建設されており、南側約三二〇坪余りの部分は転借人一七名に細分転貸されこれら転借人所有の木造平家建もしくは二階建の居宅もしくは店舗等が建設されており、しかも東が国道に接面するほか南のすぐそばに高架の高速道路(中国縦貫自動車道)があるため二、三階の建物を建築すれば騒音、排気ガスの公害がある(従って、本件土地の最有効使用の用途は運輸関連企業用地である)ことが認められることからすれば、本件土地は、最有効使用からは著しくかけはなれた形で使用されているとみられるので、建付減価率は、杉本鑑定のいう二五パーセントでは低きに失し、小野鑑定のいう四〇パーセントが正しいとみられる。

更に、底地割合について、小野鑑定は、二〇パーセントとみているのに対し、杉本鑑定は、四七・二パーセントとみている。もっとも、小野鑑定は、積算式による算定結果を賃料の保守性(わかり易くいえば、土地価格の上昇率どおりには上昇しないということ)によって修正するということはしないでその分も底地割合の認定で調整しているので、底地割合が幾分低目になっているとみられるのに対し、杉本鑑定は、前記のとおり積算式による一応の算定結果と従前賃料との開差の二分の一を従前賃料に加えて最終結果を出すという形で再度賃貸借の個別性を考慮する修正をしているので、底地割合が幾分高目になっているとみられる。しかし、≪証拠省略≫によれば、本件土地は、国道一七六号線と中国縦貫自動車道との交差点、阪急宝塚線螢池駅の北徒歩約一〇分のところに位置し、国道添いの近隣宅地の利用状況は、自動車関連企業や飲食店の用地であり、背後地の利用状況は、中小住宅や共同住宅の敷地であること、本件土地は、原告が昭和二七年被告に対し当初より転借人が多数あることを承諾のうえ賃貸したものであり、被告が現在の転借人の賃料を適正額まで増額するのは容易ではないことが認められることからすると、底地割合は、杉本鑑定のいう四七・二パーセントでは高きに失し、小野鑑定のいう二〇パーセントが正しいとみられる。

以上仔細に検討したところによれば、小野鑑定は、前記結論として述べるところも正当であると考えられ、これに相反する杉本鑑定は、失当であると考えられる。

そして、≪証拠省略≫によれば、本件土地の賃料は、昭和三六年一月以降それまで一ヶ月坪あたり八円であったものが一ヶ月坪あたり三〇円になって以来一ヶ月坪あたり一〇円未満の端数は切捨てて協定されて来たことが認められることとをあわせ考えると、本件土地の賃料は、二筆あわせて昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までは一ヶ月八万九五四二円(坪あたり一七〇円)、昭和四八年四月一日以降は一ヶ月一二万二一九九円(坪あたり二三二円)に増額されたとみるのが相当である。前記排斥した証拠以外に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四、被告が右各賃料増額の効果を争っていることは、本件弁論の全趣旨から明らかであるから、原告が右各増額賃料額の確認の利益を有することはいうまでもない。

五、よって、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるからその限度で認容することとし、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二條本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 露木靖郎)

〈以下省略〉

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